野球のギャンブルスタートとは?

2019年のセ・パ交流戦が6/4(火)から始まっています。

 

僕は阪神ファンなのですが、千葉ロッテとの交流戦開幕試合は大腸がんから復帰した原口選手のタイムリーヒットなどで11-3の勝利。原口選手が試合復帰した姿だけでなく、活躍を見れて万感の思いでした。

 

明けて翌日の試合。昨日と同じロッテ相手に5-4と1点ビハインドで9回表の攻撃を迎えます。この回の攻撃でロッテ守護神の益田投手から1アウト3塁という状況を作りバッターは高山選手。今日の話は、この場面での植田選手の走塁とベンチの指示についてです。

 

知らない方のために結果から申し上げますと、この試合、先程の場面で高山選手の打球はレフトへ飛びますが、レフトの清田選手がノーバウンドでライナーを捕球し2アウト、さらに3塁走者植田選手は打球が飛んだ時点でホームへと走っており、3塁へボールを転送され3アウト、5-4で阪神が負ける結果となりました。

 

状況だけ見れば植田選手のボーンヘッドです。もちろん、こういうミスは何とか勝利を掴みたいという思いが強すぎて起きるので、批判されることは仕方ないとは思いますが、必要以上に攻められるものではありません。

 

もっと問題だと思ったのは、試合後の阪神・矢野監督のコメントです。それによると「この走塁はベンチからのサイン」とのこと。僕は正直このコメントに疑問を覚えました。

 

矢野監督は今シーズン「積極的なミスは許す」というスタンスをとっています。僕はそれ自体はすごく良いと思っていて、近本選手が現在セ・リーグ盗塁数No.1なのもこのお陰だと思っています※1。

 

だから、もし植田選手をかばうのであれば、「『積極的に行け』というベンチからの指示が裏目に出てしまった」というのならわかりますが、「サイン」とはどういうことなのか。

 

ここで突然僕の野球遍歴を紹介させてもらうと、小学校6年から中学校3年までの間、野球部として、プレーヤーとして野球に触れてきました。それ以外の時期も、野球ファンとして、また阪神ファンとしてプロ野球の試合をはじめ春夏の甲子園などそれなりに野球に触れ続けてきました。

 

その中で、「(外野に打球が飛んでも)打球がバットに当たれば走り続けろ」なんていう作戦は聞いたことがなかったんです。

 

もちろん「ギャンブルスタート」といって「バットにボールが当たった瞬間に走者がスタートを切る」という作戦と、「ゴロGO」といって「バットにボールが当たり、その打球かゴロだとわかれば走者がスタートを切る」といった作戦があるのは認識しています。

 

ですが、これはあくまでスタートの話なので、スタートを切った後の判断は走者自身やランナーコーチに任せられるはずです。ボールインプレーの間は、監督のサインを見ている余裕などないからです。

 

だから、矢野監督が「サイン」を理由にして植田選手をかばうのは僕にとっては疑問だったのです。

 

阪神の采配に対する私見はともかく、この件に関する様々なコメントを見ているとギャンブルスタートという作戦の定義がよくわからなくなってしまいました。

 

どうやら、ギャンブルスタートをかけた以上、どんな打球が飛ぼうと走者は全力で次の塁を目指さなければいけないらしいんです。ライナー性の当たりであっても、打球の行方を振り返って走っていては打球がバウンドしていた場合に本塁を落とし入れることができないからだと。

 

ですが、僕はそれはギャンブルスタートではないと思います※2。

 

先ほどギャンブルスタートについての僕の認識を述べましたが、それだけでなく「ゴロ『GO』」や「ギャンブル『スタート』」という名前にあるように、この作戦は「スタート」についての作戦であって、その後のプレーまで考えていないはずです。もし考えてるのであれば名前が悪すぎるので「猪突猛進」とかそういう感じに変えた方が良いです※3。

 

以下、ギャンブルスタートの定義について議論があったところについて考察を加えていきます。

 

スタート後走り続ける是非

ライナー性の当たりで本塁セーフになれるかどうかという反論について。

 

まず、前提として打球の質(速度)・角度を見れば正確な着地点はともかくだいたいどのくらいの距離ボールが飛ぶのかは予測がつきます。素人の僕がわかるので、プロ野球選手なら当然わかると思います。

 

そして、フェアゾーンに飛ぶ打球をギャンブルスタートの作戦を考えるのに都合よく分類してみると、次の6種類に分けられると思います。打球が低い順に紹介していきます。

 

  1. ゴロ
  2. 低いライナー(内野手がノーバウンドで取れるか不明、つまり地面にバウンドするかもしれないライナー)
  3. 低いライナー(内野手がノーバウンドで取れる打球)
  4. ライナー(外野に抜けるかもしれないが、内野手が届くかもしれない打球)
  5. ライナー(外野に飛ぶ打球)
  6. フライ

 

野手がエラーすることを除けば、ギャンブルスタートを切ってセーフになる可能性があるのは1と2だけです。ボールが地面に落ちなければ、3塁フォースアウトになるからです。

 

理想を言えば3~6の当たりであればギャンブルスタートを切っても止まって帰塁できるのが良いでしょう。ですが当然、プレー中にこれらの6つを細かく分類することはできません。

 

しかし、3と4の間にはかなり明確に違いがあります。

 

それは、ボールの打ち出された角度を見ればわかります。少しでも上向きに、極端に言えば1°でも角度がついていれば打球は上がります。そして打球が上がれば、よほど打球速度が遅くない限りノーバウンドキャッチの可能性が生じます。

 

また打球速度も速ければ速いほど上に・遠くに飛ぶことになります。打球に角度がほんの少しでもついて、速度もそれなりに速いのであれば少なくとも内野手が立つ位置にはノーバウンドで打球が到達することは容易にわかります。

 

そしてギャンブルスタートを切るためには、打者がバットにボールを当てる瞬間に注目しなければいけません。当たった瞬間に目を切って打球を見れないはずはないので、打球の角度と速度の情報は自然と走者に入ってくるので、止まるかどうかの判断もできなくはないはずです。

 

では「絶対に止まらない」ギャンブルスタートを作戦として取るメリットですが、これは4の打球で内野手がエラーしたときに得点が自動的に入るという点につきます。もし4の打球で止まってしまえば、内野手がエラーしてもアウトになる可能性が生じるので、そこがネックになります。

 

しかし、ランナー3塁の状況であれば外野に抜ければ自動的に1点が入ります。もし打球が外野に抜けるのであれば打球が飛んだ瞬間に止まっても余裕で生還できます。

 

また、外野に抜けるかもしれないライナーを内野手がエラーするならば、打球速度がある程度出ていることからすぐに拾い直して送球できるところ(つまり目の前)に弾く可能性は低いと思われます。

 

さらに、エラーした時点で打者走者はセーフになるはずで、飛び出した3塁ランナーが挟殺プレーでアウトになるまでの間に打者走者が2塁、あるいは3塁まで進んでなおもチャンスになることも考えられます。

 

以上の点を考慮すると、外野に抜けそうなライナーに対して何も考えずに走って1点を得る可能性に賭けるよりも、外野にノーバウンドでキャッチされて3塁フォースアウトになるリスクの方が大きいと考えられます。

 

打者の役割

「ギャンブルスタートのサインが出ているなら打者はゴロを打つべきだ」という意見もありましたが、それもプロ野球ではあまりよろしくないと思います。

 

確かに、打球のよく弾む軟式野球や、守備力に不安の残るチーム相手であればゴロを転がせば点数を入る可能性が高いです。その場合には、無理矢理にでもゴロを転がす方が良いかもしれません。

 

ですが、あくまでプロ野球なので硬式球を使ってある程度最低限のレベルで守備力もあるはずなので、無理矢理ゴロを転がすよりも、前進守備で広く空いた内野手の間を鋭い打球で抜く方が得点につながる確率が高いと思います。

 

また、犠牲フライという可能性をなくしてしまうのも得点可能性を下げることになってしまいます。

 

これらの理由から、ギャンブルスタートのサインで打者が無理にゴロを打とうとするメリットは無いと思われます※4。

 

スタートを切るタイミング

僕はバットにボールが当たってからスタートするものだと思っていましたが、打者がスイングした時点でスタートを切るべきという意見もありました。

 

これはどういう意図で言ったのかわかりませんが、空振りしたらディレイドホームスチールとなり当然ランナーはアウトになる可能性が高いので、よろしくないと思います。

 

ですが、ある程度スイングと投球を見ればバットに当たりそうかの判断もできるので、当たる確信のあるスイングならスタートするというのはわかります。その方が少しですが早くスタートを切れますし。

 

でも、基本的にはバットに当たってからスタートが定石になるのではないかなと思います。

 

まとめ

考え始めると思っていたより長くなりましたが、まとめるとギャンブルスタートという作戦は、

 

  • ボールがバットに当たれば(当たると思えば)走り出す
  • 打球速度がある程度出ていて角度が少しでもついていれば止まり打球の行方を確認する、それ以外は全力で次の塁を目指す
  • 打者は自由にバッティングする

 

という定義にするのが最も得点可能性が高くなると思います。

 

以上、阪神-ロッテの交流戦の一幕からギャンブルスタートについて改めて考えてみました。

 

あくまで僕の考えなので、もし何か意見があれば議論したいのでブログのコメントでもTwitterのリプライでも何でもお待ちしてます。

 

それでは。

 

※1近本選手は盗塁数リーグNo.1であると共に盗塁死数もリーグワーストなのである(成功16、失敗9)。しかし1つ差で盗塁数リーグNo.2のヤクルト山田選手は盗塁死数0で盗塁成功率100%(成功15、失敗0)という驚異の数字を記録している。これは推測に過ぎないが、山田選手は確実に成功するときのみスタートを切っていると考えることができ(これこそが盗塁技術なのだろうが)、もしも近本選手のように積極的に盗塁を企図していればもっと盗塁数が多いかもしれないのだ。

 

※2あくまでプロ野球における話と考えていただきたい。阪神ロッテ戦に対する議論なのであるから。

 

※3誰かネーミングセンスを恵んで欲しい。

 

※4それに、転がすだけのバッティングならセーフティスクイズにした方が空振りの可能性が低くなるのではとも思ってしまう。