掛け算の順序問題

あけましておめでとうございます。

 

新年一発目は度々話題に上ってくる「小学校での計算式の順序問題」についてです。

 

さて、突然ですがみなさんは次のような問題を出されたときどういう計算式を立てますか?

 

6本で1セットの鉛筆が売られています。

3セット買うと全部で鉛筆は何本手に入りますか。

 

小学校を卒業していなくてもわかるレベルの問題ですね(「漢字が読めないだろ!」とかいうツッコミはナシでお願いします)。

 

答えは18本ですよね。では、これをどうやって考えたのか。

 

恐らく多くの人が「6×3=18」のように考えると思います。また別解として「6+6+6=18」とも考えることができます(後者は掛け算の定義を展開したような形、すなわち掛け算という演算の元になったような形だと僕は思います)。

 

では「3×6=18」はどうでしょう。最初の式と同じく掛け算を利用した立式です。自然数の掛け算ですので交換法則が成り立ちますから計算結果は当然求めるものと一致します。

 

代表的な考え方はこれくらいではないでしょうか。もちろん、僕の発想が乏しいだけで他の立式も考えられるのかもしれませんが(セットの概念を取っ払って1を18回足すとか)、今回はこの3つに注目して話を進めます。

 

どれも同じ値を導くので、所望の値を得るというタスクに対しては適切な立式だと思います。しかし、小学校では最後の式がよく減点対象になっています。ここが、議論のポイントな訳です。

 

僕は、減点までする必要はないと思います。ですが、最後の立式にケチをつけたくなる気持ちもわかります。

 

2つ目の立式のところで少し触れましたが、掛け算の発想の根底には足し算があるように思います。

 

掛け算は「1単位にいくつかの"もの"(上の問題では1セットに鉛筆6本)があり、その単位がいくつあるか(上の問題では3セット)、その結果として"もの"がいくつになるか(上の問題では鉛筆18本)」という演算をすばやく行うために定義されたと僕は思います。繰り返しの煩雑な足し算を別の演算で簡単に計算できるようにしたのだと。

 

僕が勝手に思っているだけなので本当かどうかわかりませんが、もし掛け算がこういう思考のもと生まれた計算であるとするならば、思考のプロセスを左から順に書く横書きに投影するのに自然な式の書き方は「6×3」になると思います。「3×6」であれば1セットに鉛筆3本で、それが6セットあるように捉えられかねません。

 

ですが、先に頭の中で思考が進んですばやくそれを式にすると、後に出てきた「3」という数字を先に書いてしまう気持ちもわかります。僕も今まで受けたテストで幾度となくそのような立式をしてきました。

 

※余談ですが上の問題に対して「6×3」は「キューのような立式」、「3×6」は「スタックのような立式」とも見れますね。キューとスタックはデータ構造のひとつです。今回の話から逸れすぎるのでここで説明はしませんが、知らない方は調べてみてください。

 

小学校で掛け算を習う時期というのは、先程の「掛け算のもとになった考え方」も含めて身に付ける必要があると思います。それが理由で「3×6」型の立式は減点対象になるのだと思います。きちんと考え方を理解しているかが式に表れていないとみなされて。

 

でも、減点までする必要はありません。「6×3」と書いて欲しいところに「3×6」と書くことは必ずしも考え方を理解していないことを意味していないからです。きちんと考え方がわかってるか、コメントを書いたり質問したりしてフォローしてやれば良いのです。

 

以上が「掛け算の順序問題」に対する僕の見解ですが、記事はもう少し続きます。よければ続きを読んでやってください(なぜ掛け算が上のように考えるべきなのかも書いてあるので)。

 

さて今度は長方形の面積公式に注目してみると、(縦の辺の長さ)×(横の辺の長さ)という主観的な計算の順序づけがされていることが多いと思います。縦と横なんて配置の仕方や見る方向で変更可能ですし意味のない順序づけです。

 

こんな馬鹿げた順序づけが為されているのは、恐らく考え方の理解を確認するのが難しいからだと思います。だったら出題するなという話になりますが、長方形の面積にも掛け算の考え方が利用できると知って欲しい出題者の気持ちもわかります。

 

これも順序通りに式を立てていないがために減点されたというツイートを散見します。恐らく掛け算の考え方をわかってないと判断されたのでしょう。まあ小学校の先生は多忙ですから採点なんて機械的にこなすしかないのでしょうから仕方ないのかもしれません。

 

これらの問題に対して、以下の解決策が考えられます。

 

  1. 長方形の面積など、考え方を確認しづらい問題はより高学年の違う単元に回す
  2. 立式に単位を書かせる

 

1についてですが、どの問題をどこの単元に回すのかを考えるのが手間で、考え方を理解しているかの確認で減点されたり、採点後のアフターフォローが教師の負担になるので、僕は2が良いと思います。

 

では具体例を。

 

最初の問題の式に対して6[本/セット]、3[セット]と単位をつけて書くようにすれば、「3×6」「6×3」いずれの順序で立式しても掛け算した結果は18[本]となります。こうすれば掛け算の考え方を理解できているかうまく確認できますし、またこれが掛け算の考え方が先ほどのように考えるべきである理由です。この単位を用いた考え方は理科における計算など応用可能な範囲が多くあるため、小学校のうちから身に付けられれば嬉しいですよね。

 

ここで「いや長方形の面積公式は[cm]×[cm]じゃないか、掛け算の考え方が反映されてないじゃないか」という方もいると思います。ですが、これも単位の考え方を導入するから得られるものです。

 

長方形を縦に分けて面積を求めるとします。このとき、公式は「(縦[cm])×(横[cm])=(面積[cm^2])」です。どちらの辺を縦、横にするかは任意です。

 

この公式、実際は「横の長さ1[cm]の縦長のブロックが長方形の中にいくつ敷き詰められるか」という考えの下導かれています。つまり、元々この公式は例えば縦5cm、横4cmの長方形に対し「5[cm^2/ブロック]×4[ブロック]=20[cm^2]」となっているのです。

 

さて、掛け算の交換法則をご存知の方は掛け算の結合法則もご存知かと思うのですが、それを利用するとこの考え方を以下のように単純化することができます(縦、横の辺の長さをそれぞれA、Bとしています)。

 

A[cm^2/ブロック]×B[ブロック]

=A×B[(cm^2/ブロック)×ブロック]

=A×B[cm^2]

=A×B[cm×cm]

=A[cm]×B[cm]

 

長方形の面積を求める考え方が見慣れた面積公式に変形されますよね。本当はこういうプロセスがあったはずなんです。

 

まあ単位の中と外の掛け算の対応関係についてガバガバ感が否めませんが、小学校の段階であればこれで十分かと思います。

 

ただこうした解決策2にも問題があって、「そもそもこれを理解できるのか」という問題、「"/"が出てくるので先に割り算も勉強しておくべきではないか」という問題、「"^"(累乗)の記法の導入」という問題などがあります。

 

特に「理解できるのか」というのが問題です。意外と高校生でも化学の計算問題を教えているとこの単位の考え方を言われるまで気付かない子が多いんですよね。

 

でも、無理じゃないと思うんですよね。一気に教えると混乱しますが、まずは九九、そして桁の増えた掛け算、累乗という書き方、割り算、分数の書き方、それからこの単位の考え方を導入してそこではじめて文章題を解かせる形で良いと思うんです。そうすればできないことはないはずです。足し算の時にすでに単位の考え方を導入しておくとかね。

 

以上、思ったより長くなりましたが「計算順序で減点される問題」について思ったことをまとめてみました。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。

 

P.S. 自然数の掛け算に対して交換法則が成り立つことはどうやったら証明できるんですかね?めっちゃ面倒臭そうですね。